カシミア・カシミア -3-。
私は、カシミアが好きです。
そして、カシミアとシルクは繊維の王だと思っています。それは、光沢や質感について常に、「カシミアのような・・・」とか、「シルクのような・・・」という例えがなされることが証明していると思います。
良質のカシミアは、コートでも、ニットでも、ホーズでも素晴らしいものですが、個人的に最も向いているのはスーツだと思っています。冬暖かくて、夏涼しく、同じ織り方、目付で、一年を通して着られる期間が最も長いのではないでしょうか。もっとも、そうしたスーツを仕立てるには、その使用に耐えうる優れた原毛・紡績・織りの生地が必要で、今現在、なかなか手に入れられるものではないことも確かですが・・・。
私自身、約三十年仕立服をアレコレして来ておりますが、やはり、カシミアは最も好きな生地の一つです。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン1
しかし、最近では、カシミアは不当に低く評価されている気がします。粗悪な低級品の氾濫や、所謂テレビジョンセレブと言われる品の無い人達が、お金にあかせて身に付けるもの、といったイメージが評価を低くしているのは、或る面で仕方の無いことと思いますが、一部の服飾業界の方達や服装に拘る方達が、カシミアのコートやジャケットを異端と冷笑する傾向には同意しかねます。
確かに、ガーズコートやピーコート、ポロコートなどは、元々カシミア地ではありませんでしたし、シングルブレステッドにしろダブルブレステッドにしろ、ブレザーもそうでした。そうした元来の素材で仕立てられたものに、特有の機能美があり、着込むことによって独特の着感が出る、などの様々な美点があるのは理解しますし、私もそれを愛しますが、あまりにその面を強調し過ぎるのは如何なものでしょうか?
亜熱帯に近い気候になった日本で、今よりずっと寒かった英国の冬素材を使うことが機能的でしょうか? 軍人が雨の中を歩き回り、作業をするという状況に耐えうる生地が、現在の日本のエグゼクティブに必要でしょうか?
服はまず快適であるべきであり、「着用する人間の状況に合わせて」機能的であるべきだと思います。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン2
色と光沢と質感のバランスが素晴らしい生地だと思います。
好きで着る事や、原理主義的なものを否定はしませんが、そうした方達は、自分の路線と違うものを路線上と同じレベルで試した上でのお話なのでしょうか?
釣りに例えれば、「鮎に始まり鮎に終わる」とか「鮒に始まり鮒に終わる」と申しますが、それは、鮎や鮒と同じレベルで、他の魚や釣法も追求し、最終的にやはり鮎や鮒がよい、となることです。友竿しか握ったことが無いのに、「鮎に始まり鮎に終わる」を気取って、鮎だ、鮎だと騒いでいるのは、個人的な面では微笑ましいですが、一人静かにやって頂きたいものです。その知識や経験値は、自分以外の人間に何かを言えるレベルのものではないのですから。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン3
N氏はいつも、背中を男らしい美しさに仕立ててくれます。
カシミアの光沢は独特で、ヌメ感とか、濡れた様なと例えられますが、特有の華やかさがあると思います。
私は、ダークスーツでも比較的格式のある、ブラックタイではないけれども、そこそこフォーマル感のある集いなどで着用するのが好きなのです。その光沢の華やかさが、そうした場面によく合うと思うのです。しかし、この光沢は、品質が落ちるほど品の無いものになっていきますので、あくまでも上質なものでのお話で、その点、注意が必要です。
質感については、個人の好みが優先されると思いますが、元々軽い素材なので、スーツに仕立てる生地としては、あまり軽いものは向かないと思います。繊維長が長いものを使っていて、握ると生地に腰が感じられて、打ち込みが多く、目付もある程度あるものが良いと思います。具体的なウエイトで、320~330gくらいでしょうか。許されれば、生地の端に親指か人差し指を押し付けて、グリグリとおやりになってみて下さい(笑)。それで、毛羽だったり、へこみができるような生地は、スーツは無理だと思われた方が無難です。
良いものに出会う機会を得ることが困難で、紛い物レベルの生地も多いカシミアですが、コレは!というものに出会った折には、清水の舞台から飛び降りることをお勧めしたいですね。俗な表現で恐縮ですが、この、泥パックの中に全身を包んだような、甘やかな快感を、お好きな方には是非追求して頂きたいと思います。
そして、カシミアとシルクは繊維の王だと思っています。それは、光沢や質感について常に、「カシミアのような・・・」とか、「シルクのような・・・」という例えがなされることが証明していると思います。
良質のカシミアは、コートでも、ニットでも、ホーズでも素晴らしいものですが、個人的に最も向いているのはスーツだと思っています。冬暖かくて、夏涼しく、同じ織り方、目付で、一年を通して着られる期間が最も長いのではないでしょうか。もっとも、そうしたスーツを仕立てるには、その使用に耐えうる優れた原毛・紡績・織りの生地が必要で、今現在、なかなか手に入れられるものではないことも確かですが・・・。
私自身、約三十年仕立服をアレコレして来ておりますが、やはり、カシミアは最も好きな生地の一つです。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン1
しかし、最近では、カシミアは不当に低く評価されている気がします。粗悪な低級品の氾濫や、所謂テレビジョンセレブと言われる品の無い人達が、お金にあかせて身に付けるもの、といったイメージが評価を低くしているのは、或る面で仕方の無いことと思いますが、一部の服飾業界の方達や服装に拘る方達が、カシミアのコートやジャケットを異端と冷笑する傾向には同意しかねます。
確かに、ガーズコートやピーコート、ポロコートなどは、元々カシミア地ではありませんでしたし、シングルブレステッドにしろダブルブレステッドにしろ、ブレザーもそうでした。そうした元来の素材で仕立てられたものに、特有の機能美があり、着込むことによって独特の着感が出る、などの様々な美点があるのは理解しますし、私もそれを愛しますが、あまりにその面を強調し過ぎるのは如何なものでしょうか?
亜熱帯に近い気候になった日本で、今よりずっと寒かった英国の冬素材を使うことが機能的でしょうか? 軍人が雨の中を歩き回り、作業をするという状況に耐えうる生地が、現在の日本のエグゼクティブに必要でしょうか?
服はまず快適であるべきであり、「着用する人間の状況に合わせて」機能的であるべきだと思います。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン2
色と光沢と質感のバランスが素晴らしい生地だと思います。
好きで着る事や、原理主義的なものを否定はしませんが、そうした方達は、自分の路線と違うものを路線上と同じレベルで試した上でのお話なのでしょうか?
釣りに例えれば、「鮎に始まり鮎に終わる」とか「鮒に始まり鮒に終わる」と申しますが、それは、鮎や鮒と同じレベルで、他の魚や釣法も追求し、最終的にやはり鮎や鮒がよい、となることです。友竿しか握ったことが無いのに、「鮎に始まり鮎に終わる」を気取って、鮎だ、鮎だと騒いでいるのは、個人的な面では微笑ましいですが、一人静かにやって頂きたいものです。その知識や経験値は、自分以外の人間に何かを言えるレベルのものではないのですから。

N氏に仕立てて頂いたカシミアのスーツ。トライングオン3
N氏はいつも、背中を男らしい美しさに仕立ててくれます。
カシミアの光沢は独特で、ヌメ感とか、濡れた様なと例えられますが、特有の華やかさがあると思います。
私は、ダークスーツでも比較的格式のある、ブラックタイではないけれども、そこそこフォーマル感のある集いなどで着用するのが好きなのです。その光沢の華やかさが、そうした場面によく合うと思うのです。しかし、この光沢は、品質が落ちるほど品の無いものになっていきますので、あくまでも上質なものでのお話で、その点、注意が必要です。
質感については、個人の好みが優先されると思いますが、元々軽い素材なので、スーツに仕立てる生地としては、あまり軽いものは向かないと思います。繊維長が長いものを使っていて、握ると生地に腰が感じられて、打ち込みが多く、目付もある程度あるものが良いと思います。具体的なウエイトで、320~330gくらいでしょうか。許されれば、生地の端に親指か人差し指を押し付けて、グリグリとおやりになってみて下さい(笑)。それで、毛羽だったり、へこみができるような生地は、スーツは無理だと思われた方が無難です。
良いものに出会う機会を得ることが困難で、紛い物レベルの生地も多いカシミアですが、コレは!というものに出会った折には、清水の舞台から飛び降りることをお勧めしたいですね。俗な表現で恐縮ですが、この、泥パックの中に全身を包んだような、甘やかな快感を、お好きな方には是非追求して頂きたいと思います。
スポンサーサイト
カシミア・カシミア -2-。
N氏より、件のカシミアスーツの最初の仮縫いの準備が整った旨のお知らせを頂き、早速行って参りました。
私を待っていた仮縫いは、ハンガーにかかり、カシミア特有のぬめらかな光沢を放っておりました。
N氏の手を借りながらトラウザースから身に着けていきます。まだ、付属品が一切付いていないので、要所要所をN氏がピンで留めていきます。

トラウザースとベストを着用した写真↑です。仮縫いに足を入れて、最初に感じたのは、生地の柔らかな見た目とは違った、しっかりと詰んだ質感です。この生地だと膝が出るのを気にしなくてよさそうな、そんな強靭さが有るのです。人が着用しての動作に対する耐久性は、細番手のウーステッドより強いと思います。
照明のある室内で見た生地の感じは、この写真と下の写真が近いと思います。光量によって濃紺無地に見えることもありますし、時折表情を見せるヘリンボーンが、シャドゥストライプの様で味わい深いです。

上着を着用しました↑。袖を通してまず感じるのは、しなやかさと軽さです。身体に軽やかにまとわりつくという感じで、サイクル・ウェアからタイトさを除いた感覚、というのが近い表現だと思います。
あらためて思ったのは、フランネルなどの重量のある生地の服との比較は無意味だということです。仕立て上がる服がスーツという形に分類されるというだけで、同じ土俵の上にいないものなのです。
つまり、このカシミアがどんなに素晴らしく仕立て上がって、快適に着て歩いていても、やはり、フランネルやヘビー・ウーステッドは着たくなるでしょうし、逆に、どんなにフランネルを愛していても、このカシミアの服は着たくなるでしょう。

上着を着用したアップです↑。いつもながら、N氏のカットは素晴らしいと思います。大好きです。相性というものがあるとは思いますが、特にダブルブレステッドのカットは、私にとっては今現在、彼のものが最高です。

背中側からの写真↑です。ツイードの項でも書かせて頂きましたが、肩甲骨周辺に山があって、ウエストが細い私の背中のフィッティングは難しいのですが、N氏はいつも、生地によって背中をどう表現するかを楽しみになさって(笑)いるようです。さて、今回はどんな背中に仕上がるのでしょうか?

斜めから見た背中のアップの写真↑です。背中から腰椎に向かって流れる、このラインが美しいと思います。流麗と端整が同居している、しかし、男っぽい表現をしてくれるのが、N氏の背中の仕立ての特長だと思います。身体のラインを生かすカットやシェイプだと、スーツはややもすると女性的なラインになりがちですが、しかし、N氏の服は「男らしい(笑)」のです!
次回の中縫いに向けて、仮縫いをしながら二人でアレコレと雑談を交えながら、夢中になって話し込んでしまい、数時間がアッという間でした。
先の楽しみが、アレコレと一気に増えた仮縫いでしたが、仕立て上がりの報告をさせて頂くのは、さて、何時のことになるのでしょうか(笑)?
まぁ、いつも通りにのんびりと、焦らずゆっくり、でも、楽しみは深く濃く、アンダンテ・アンダンテ・・・で参ります。
私を待っていた仮縫いは、ハンガーにかかり、カシミア特有のぬめらかな光沢を放っておりました。
N氏の手を借りながらトラウザースから身に着けていきます。まだ、付属品が一切付いていないので、要所要所をN氏がピンで留めていきます。

トラウザースとベストを着用した写真↑です。仮縫いに足を入れて、最初に感じたのは、生地の柔らかな見た目とは違った、しっかりと詰んだ質感です。この生地だと膝が出るのを気にしなくてよさそうな、そんな強靭さが有るのです。人が着用しての動作に対する耐久性は、細番手のウーステッドより強いと思います。
照明のある室内で見た生地の感じは、この写真と下の写真が近いと思います。光量によって濃紺無地に見えることもありますし、時折表情を見せるヘリンボーンが、シャドゥストライプの様で味わい深いです。

上着を着用しました↑。袖を通してまず感じるのは、しなやかさと軽さです。身体に軽やかにまとわりつくという感じで、サイクル・ウェアからタイトさを除いた感覚、というのが近い表現だと思います。
あらためて思ったのは、フランネルなどの重量のある生地の服との比較は無意味だということです。仕立て上がる服がスーツという形に分類されるというだけで、同じ土俵の上にいないものなのです。
つまり、このカシミアがどんなに素晴らしく仕立て上がって、快適に着て歩いていても、やはり、フランネルやヘビー・ウーステッドは着たくなるでしょうし、逆に、どんなにフランネルを愛していても、このカシミアの服は着たくなるでしょう。

上着を着用したアップです↑。いつもながら、N氏のカットは素晴らしいと思います。大好きです。相性というものがあるとは思いますが、特にダブルブレステッドのカットは、私にとっては今現在、彼のものが最高です。

背中側からの写真↑です。ツイードの項でも書かせて頂きましたが、肩甲骨周辺に山があって、ウエストが細い私の背中のフィッティングは難しいのですが、N氏はいつも、生地によって背中をどう表現するかを楽しみになさって(笑)いるようです。さて、今回はどんな背中に仕上がるのでしょうか?

斜めから見た背中のアップの写真↑です。背中から腰椎に向かって流れる、このラインが美しいと思います。流麗と端整が同居している、しかし、男っぽい表現をしてくれるのが、N氏の背中の仕立ての特長だと思います。身体のラインを生かすカットやシェイプだと、スーツはややもすると女性的なラインになりがちですが、しかし、N氏の服は「男らしい(笑)」のです!
次回の中縫いに向けて、仮縫いをしながら二人でアレコレと雑談を交えながら、夢中になって話し込んでしまい、数時間がアッという間でした。
先の楽しみが、アレコレと一気に増えた仮縫いでしたが、仕立て上がりの報告をさせて頂くのは、さて、何時のことになるのでしょうか(笑)?
まぁ、いつも通りにのんびりと、焦らずゆっくり、でも、楽しみは深く濃く、アンダンテ・アンダンテ・・・で参ります。
カシミア・カシミア -1-。
三つ前の項で予告(? 笑)させて頂いた、カシミアの生地がやってまいりました。
濃紺、ヘリンボーン地の、俗に申します、ウーステッド・スパン・カシミアです。
スコットランドの生地屋さんの生地で、「私の仕立て屋さん」N氏をMy dear Friend.と呼ぶ、社長さん自らN氏のお店に届けて下さいました。

カシミアの手触りとぬめりのある光沢をもちながら、カシミアとは思えないしっかりとした打ち込みで、ウエイトもあり、生地を親指と人差し指でつまんで、力を入れてグリグリとやっても全く毛羽立ちません。
「最上級の原毛のみが、最高級の服地を産むことができる」という、この生地会社の創業者からのフィロソフィーが体感できる生地だと思います。
原毛の選択から、染色、梳毛そして生地が紡ぎ上がるまでの工程を、ほんとうに手を抜くことなく、まじめに作り上げたのでしょう。
90年代に、イタリアの高級既製服のブランドが一時多用した、カシミア用スーツ生地とは、比較するのも失礼なくらい次元の違う質の生地です。光沢や生地の滑らかさに人工的なものが全く無いのです。

濃紺の色合いもトーンもちょうど良く、光線の具合によって浮き上がるヘリンボーンがシャドゥストライプのようで、生地自体が一つのエレガンスを持っているようです。
生地屋さんの社長さんが、「N、君はいつも本物の服を作っている、これからもずっとそうであってくれ。私も、常に本物の服地を提供してゆくつもりだ。」とおっしゃった言葉が思い出されます。
仮縫いの時などに、私の身体を撫でながら体型を頭に入れるように、生地を撫でながら型をひきカットしていくN氏の姿や、生地に合わせて芯地を工夫するN氏の顔、そして、私の姿を思い浮かべながら一針一針と縫っていくN氏の姿が今から目に浮かびます。
彼らの真面目でひたむきな研鑽に応えるために、その血脈の結晶を纏う私は、より私らしく、私そのものになるよう努めなければならないと思っています。
そして、服として袖を通した瞬間から、これまでN氏に仕立ていただいた服たちと同じように、着たことすら忘れて町へ飛び出して行くことでしょう。

新たに拡充したN氏の作業場で、この生地にはさみが入るのはそろそろでしょうか?広く長い作業台の上に、この生地が広げられて裁断されるところは、是非見たいと思っております。
いつもの私の定番のスタイルに仕立てて頂く予定ですが、仕立て上がるのは今年の寒くなる頃でしょうか?
濃紺、ヘリンボーン地の、俗に申します、ウーステッド・スパン・カシミアです。
スコットランドの生地屋さんの生地で、「私の仕立て屋さん」N氏をMy dear Friend.と呼ぶ、社長さん自らN氏のお店に届けて下さいました。

カシミアの手触りとぬめりのある光沢をもちながら、カシミアとは思えないしっかりとした打ち込みで、ウエイトもあり、生地を親指と人差し指でつまんで、力を入れてグリグリとやっても全く毛羽立ちません。
「最上級の原毛のみが、最高級の服地を産むことができる」という、この生地会社の創業者からのフィロソフィーが体感できる生地だと思います。
原毛の選択から、染色、梳毛そして生地が紡ぎ上がるまでの工程を、ほんとうに手を抜くことなく、まじめに作り上げたのでしょう。
90年代に、イタリアの高級既製服のブランドが一時多用した、カシミア用スーツ生地とは、比較するのも失礼なくらい次元の違う質の生地です。光沢や生地の滑らかさに人工的なものが全く無いのです。

濃紺の色合いもトーンもちょうど良く、光線の具合によって浮き上がるヘリンボーンがシャドゥストライプのようで、生地自体が一つのエレガンスを持っているようです。
生地屋さんの社長さんが、「N、君はいつも本物の服を作っている、これからもずっとそうであってくれ。私も、常に本物の服地を提供してゆくつもりだ。」とおっしゃった言葉が思い出されます。
仮縫いの時などに、私の身体を撫でながら体型を頭に入れるように、生地を撫でながら型をひきカットしていくN氏の姿や、生地に合わせて芯地を工夫するN氏の顔、そして、私の姿を思い浮かべながら一針一針と縫っていくN氏の姿が今から目に浮かびます。
彼らの真面目でひたむきな研鑽に応えるために、その血脈の結晶を纏う私は、より私らしく、私そのものになるよう努めなければならないと思っています。
そして、服として袖を通した瞬間から、これまでN氏に仕立ていただいた服たちと同じように、着たことすら忘れて町へ飛び出して行くことでしょう。

新たに拡充したN氏の作業場で、この生地にはさみが入るのはそろそろでしょうか?広く長い作業台の上に、この生地が広げられて裁断されるところは、是非見たいと思っております。
いつもの私の定番のスタイルに仕立てて頂く予定ですが、仕立て上がるのは今年の寒くなる頃でしょうか?
カシミア恋唄。
カシミアが好きです。
唐突にこんな書き出しをすると、「嫌いな人いないだろう」と突っ込まれてしまいそうですが、最近は、世間に出まわるカシミアの質の低下と、男性の重衣料に昔風のしっかりした生地が見直されてきていることもあり、カシミアについて批判的な意見を多々耳にしますから、案外、十年前と比べたら熱狂的なカシミア・ファンは少ないのかもしれません。
また、現在のカシミアの質の低下を考えると、「騒ぐほど大したことはない」と思われても仕方がないのかもしれません。70~80年代中盤くらいまでに、本当に質の良いカシミアを見て、触れたことの無い方達は「本物」のカシミアを知らないと言っても言い過ぎではないでしょう。それくらい、それ以降のカシミアの質は下降を続けています。
カシミアは、カシミール地方を原産とするカシミア山羊のアンダーコート(産毛などとも表現されます)から紡がれます。生息環境が、寒冷地の厳しい気候のために、カシミア山羊は所謂ダブルコートの被毛を持ち、外側のオーバーコートは長い剛毛で、内側のアンダーコートは柔らかくしなやかです。原毛には、ホワイト、グレイ、ブラウンというカラー・グレードがあり、ホワイトがトップ・グレードと規定されています。現在、最高品質とされているのは中国産のカシミアで、原毛の生産量も世界最多です。
この辺りまでは、改めてここで書かなくとも、ご存知の方も多いでしょう。
更に、このホワイト・カシミアを糸や生地に紡ぐ際に、原毛の段階で染めてから紡いだものが、一般的に私達が高価だと認識している高級品の原材料となるのです。
しかし、残念なことに、中国が原毛の生産の中心を占めるようになってからは、生産拡大のために本来は採毛のためのカシミア山羊の飼育に向かない温暖地でも飼育され始め、著しく質の劣った原毛も市場にあらわています。時には、そうした粗悪品が意図的に高級品にブレンドされるために、カシミアの質は急激に下がりつつあるのです。加えて、高級服地の生産をイタリアが占めるようになってから、混ぜ物がされることが暗黙の常識となり、少量のウールやコットン、時には化学繊維が織り込まれることが、品質低下に拍車をかけています。

カシミアの衣服と言えば、コート、ジャケット、セーター、ショール、マフラーなどが一般的ですが、私はカシミアのスーツが好きです。あまり一般的ではありませんが、しなやかで美しくそれに優しい着心地で、寒い時に温かく、暖かい時には涼しいからです。
ではなぜ、カシミアのスーツは見かけないのでしょうか?
スーツの服地は、コートやジャケットと違い、殆どがウーステッドといわれる梳毛生地です。梳毛とは文字通り梳くことで、長めの原毛を梳いていき梳き上がったものに強めに撚りをかけて糸にするのです。スーツの生地が滑らかで、毛羽立っていないのはこのためなのです。
しかし、カシミアは前述のように、アンダーコートの産毛が原材料ですから、柔らかく、軽く、しなやかであっても繊維長が短く、通常では長い繊維長を必要とする梳毛糸にし難いのです。そこで、紡毛糸にしてコートやジャケット、ニット用の毛糸などにすることになります。
では、カシミアで梳毛生地を作るにはどうしたらよいのでしょう?それには、通常のカシミア山羊よりも更に気候条件の厳しい原寒地で飼育されるカシミア山羊の産毛だけを使う必要があります。原寒地になれば、通常では短い産毛が長く高密になり、充分に梳毛が可能な産毛を採取することができます。但し、こうした気候条件は人間にとっても過酷ですから、可能な人間も少なく、多頭飼育も不可能で、それだけに希少ということになります。
繊維長が極めて長い産毛で紡がれたカシミアの梳毛生地は、柔らかくしなやかで、カシミア独特のヌメ感を持ちながら、しっかりとした密度と強さがあり、丈夫さこそウールに一歩譲りますが、スーツにするには最適な素材の一つだと思います。また、こうした梳毛しうる原毛で紡がれた紡毛生地こそが本物のカシミアで、そんな生地で仕立てられたジャケットや特にコートは、見た目の素晴らしさもさることながら、その暖かさ、着心地は、まさに天にも昇るものと言えるでしょう。
これこそが「カシミア」で、私が恋するのはこういう「カシミア」なのです。
ひょんなことから手元にやってくることになりました、上質のカシミアスーツ服地、近々こちらで見て頂くことができると思います。どうぞ、お楽しみに。
唐突にこんな書き出しをすると、「嫌いな人いないだろう」と突っ込まれてしまいそうですが、最近は、世間に出まわるカシミアの質の低下と、男性の重衣料に昔風のしっかりした生地が見直されてきていることもあり、カシミアについて批判的な意見を多々耳にしますから、案外、十年前と比べたら熱狂的なカシミア・ファンは少ないのかもしれません。
また、現在のカシミアの質の低下を考えると、「騒ぐほど大したことはない」と思われても仕方がないのかもしれません。70~80年代中盤くらいまでに、本当に質の良いカシミアを見て、触れたことの無い方達は「本物」のカシミアを知らないと言っても言い過ぎではないでしょう。それくらい、それ以降のカシミアの質は下降を続けています。
カシミアは、カシミール地方を原産とするカシミア山羊のアンダーコート(産毛などとも表現されます)から紡がれます。生息環境が、寒冷地の厳しい気候のために、カシミア山羊は所謂ダブルコートの被毛を持ち、外側のオーバーコートは長い剛毛で、内側のアンダーコートは柔らかくしなやかです。原毛には、ホワイト、グレイ、ブラウンというカラー・グレードがあり、ホワイトがトップ・グレードと規定されています。現在、最高品質とされているのは中国産のカシミアで、原毛の生産量も世界最多です。
この辺りまでは、改めてここで書かなくとも、ご存知の方も多いでしょう。
更に、このホワイト・カシミアを糸や生地に紡ぐ際に、原毛の段階で染めてから紡いだものが、一般的に私達が高価だと認識している高級品の原材料となるのです。
しかし、残念なことに、中国が原毛の生産の中心を占めるようになってからは、生産拡大のために本来は採毛のためのカシミア山羊の飼育に向かない温暖地でも飼育され始め、著しく質の劣った原毛も市場にあらわています。時には、そうした粗悪品が意図的に高級品にブレンドされるために、カシミアの質は急激に下がりつつあるのです。加えて、高級服地の生産をイタリアが占めるようになってから、混ぜ物がされることが暗黙の常識となり、少量のウールやコットン、時には化学繊維が織り込まれることが、品質低下に拍車をかけています。

カシミアの衣服と言えば、コート、ジャケット、セーター、ショール、マフラーなどが一般的ですが、私はカシミアのスーツが好きです。あまり一般的ではありませんが、しなやかで美しくそれに優しい着心地で、寒い時に温かく、暖かい時には涼しいからです。
ではなぜ、カシミアのスーツは見かけないのでしょうか?
スーツの服地は、コートやジャケットと違い、殆どがウーステッドといわれる梳毛生地です。梳毛とは文字通り梳くことで、長めの原毛を梳いていき梳き上がったものに強めに撚りをかけて糸にするのです。スーツの生地が滑らかで、毛羽立っていないのはこのためなのです。
しかし、カシミアは前述のように、アンダーコートの産毛が原材料ですから、柔らかく、軽く、しなやかであっても繊維長が短く、通常では長い繊維長を必要とする梳毛糸にし難いのです。そこで、紡毛糸にしてコートやジャケット、ニット用の毛糸などにすることになります。
では、カシミアで梳毛生地を作るにはどうしたらよいのでしょう?それには、通常のカシミア山羊よりも更に気候条件の厳しい原寒地で飼育されるカシミア山羊の産毛だけを使う必要があります。原寒地になれば、通常では短い産毛が長く高密になり、充分に梳毛が可能な産毛を採取することができます。但し、こうした気候条件は人間にとっても過酷ですから、可能な人間も少なく、多頭飼育も不可能で、それだけに希少ということになります。
繊維長が極めて長い産毛で紡がれたカシミアの梳毛生地は、柔らかくしなやかで、カシミア独特のヌメ感を持ちながら、しっかりとした密度と強さがあり、丈夫さこそウールに一歩譲りますが、スーツにするには最適な素材の一つだと思います。また、こうした梳毛しうる原毛で紡がれた紡毛生地こそが本物のカシミアで、そんな生地で仕立てられたジャケットや特にコートは、見た目の素晴らしさもさることながら、その暖かさ、着心地は、まさに天にも昇るものと言えるでしょう。
これこそが「カシミア」で、私が恋するのはこういう「カシミア」なのです。
ひょんなことから手元にやってくることになりました、上質のカシミアスーツ服地、近々こちらで見て頂くことができると思います。どうぞ、お楽しみに。