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男性の必須宝飾品。

宝石や貴金属で身を飾るのは、基本的には女性の範疇で、男性はあまり身に着けないものですが、ドレッシーな洋装に必須の宝飾品が一つだけあります。それは、カフ・リンクスです。年配の方はカフス釦などとおっしゃいますが、これは和製英語で、カフとは洋服の袖口のことをいいます。シャツの袖口を留めて閉じる(リンクする)ための宝飾品なので、カフ・リンクスというのです。

現在では、シャツの袖口には、片側に貝釦があり、もう片側が釦穴になっているのが普通ですが、カフ・リンクスを使うシャツは、袖口の両側が釦穴になっています。これは昔、シャツの芯地にとても硬いものが使われ、更に硬くするために糊付けされている頃には、貝釦では留め難く、貫通させる構造のカフ・リンクスの方が留め易かったことの名残りの仕様です。ですから、フォーマル度の高い装いには、必然的にカフ・リンクスを必要とする装いが多くなります。カフ・リンクスの起源は、十七世紀、或いは十九世紀半ばのフランスであるといわれていますが、諸説あって確かなことは判りません。ちなみに、貝釦で留める袖口を、バレル・カフといいます。

夜の正礼装である、イブニング・テールコートと準礼装であるディナーコート(タキシード)。そして、昼の正礼装である、モーニングコートは、カフ・リンクスで留める袖口のシャツを着用するのが決まりです。ダークスーツにも、カフ・リンクス仕様のシャツを着用した方が、よりドレッシーでエレガントになります。

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カフ・リンクスで留める袖口のシャツは、現在では、袖口を二重に折り返したフレンチ・カフ又はダブル・カフスと呼ばれるものが一般に多く知られていますが、これは、シャツに折り返しの襟型がうまれ、シャツの襟と袖口の芯地がより柔らかくソフト化していく傾向の中で、袖口が柔らかすぎるとカフ・リンクスが様にならないために生まれた、カフ・リンクスのための新しい仕様なのです。厚く硬い芯地の折り返さない袖口、シングル・カフの方がよりクラシックな仕様なのですが、扱いの面倒さから現在では殆ど見られなくなりつつあります。我こそは!と思われるクラシックスタイルの愛好家は、勇気を持って試されてはいかがでしょう。但し襟を、バランス的に、袖口に負けないシャキッと硬い襟にしなければなりませんが(笑)。

ここで一つだけ申し上げたいことがあります。既成のシャツの中には、バレル・カフの仕様でありながら、袖口の貝釦の横に釦穴があり、貝釦で留めることもカフ・リンクスを用いることもできるという、コンバーティブル・カフと呼ばれる仕様がありますが、これにはカフ・リンクスを用いず、バレル・カフとして着用して頂きたいのです。物事には、表と裏の二つの見方が出来るものがあり、どちらでも使えるということは、「便利である」と考えることも出来ますが、「節操が無い」という捉え方も出来ます。こと、装いに関しては、圧倒的に後者の場合が多いことを知っておいて頂ければと思います。

カフ・リンクスは、その日の皆さんの装いと、穏やかな調和がとれるような素材や色のものを選ばれるようお勧めします。間違っても、挨拶した途端に袖口に目が吸いつけられるような、派手であったり、腕周りの割りにゴツ過ぎたりするものを選ばれませんように。手首が細いのに、ゴツい腕時計が好きな日本人男性は、この点特に注意が必要だと思います。

フォーマルシーンのカフ・リンクスにも、少し着用にお気遣いが必要です。礼装ではモノトーンのカフ・リンクスが基本です。特に、昼の正礼装であるモーニングコートの場合は、シルバーやプラチナなどの銀色の金属製で、宝石などが埋め込まれている場合は、平面的にあしらわれたマザー・オブ・パールなどの白いものが「常識」となります。夜の礼装もこれに準じており、モノトーンの白よりが基本ですが、金の台座やブラックオニキスなどの黒い宝石も常識的な範囲となります。特に、準礼装のディナーコート(タキシード)は、より自由度が大きいので、色々な楽しみ方が出来るのですが、その分装いに熟慮が必要となります。カフ・リンクスが目立ち過ぎませんか?異性のパートナーの宝飾品を霞ませていませんか?夜会では、男性の最も大事な役目は、女性のエスコートであることをお忘れなく(笑)。
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誰が袖にもの想う。

前回、上着の前釦の話を書かせて頂いたので、釦続きで(笑)、今回は袖の釦について書かせて頂きます。

最近は、男性服の量販店でも仕立て服の仕様などを取り入れて、色々と凝ったディテールを実現していますが、既成のスーツで最も多く目にするのが、本開き或いは本切羽と呼ばれる、袖の釦が実際に開け閉じできる仕様です。なぜ多く目にするかといえば、この釦の幾つかを外している人が多いからです。

スーツの袖釦は、前釦の縦配列+一個を配するのが普通です。つまり、シングルブレステッド三つ釦とダブルブレステッド六つ釦の場合は四つになる訳です。この袖釦が実際に開け閉じ出来るのは、上着を脱ぐことがとても無作法であると考えられていた時代に、腕まくりをするための名残りです。本開きであることが、必ずしも手の掛かった仕立てである訳ではありません。では、何故凝ったディテールであるといわれたり、服好きの一部の人達に受けるのでしょう?それは、袖に穴を開けてしまうと、袖丈の直しが困難になるため、袖丈が着る人にきちんと合っていなければならない、つまり仕立てたものであることの間接的な証明にできるからです。また、穴を開けた袖を直すには、上着の肩を外して直さねばならず、当然のことながら、袖の先端から丈を直すよりも高度な技術が要求されます。袖の本開きは、自分がそれができる仕立て屋さん或いは服屋さんの顧客であることの間接的な証明と出来るという訳です。

しかしながら、開ける必要も無いのに閉じておくべき釦を外して、袖が本開きであることを見せるというのは、とても無作法でだらしのない行為です、個人の好みといわれればそれまでですが、礼儀作法上はして頂きたくないものですね。例外的に、この所作が様になるのは、世間がその人を洒落者であると認知しており、かつ忙しくて開けたのを閉じ忘れたということをスマートに演出できる立場の人に限ります。以前のフィアット・グループの会長、ジョバンニ・アニエッリ氏が、シャツのカフの上から腕時計をしていたように。仲間内でお洒落とか、服好きとかいわれている程度の方達は、無様になるだけですので決してすべきではないと思います。

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この袖釦の本開き、カントリージャケットに施すのは、実はエキセントリックな行為であるということを知らない方が多いことにも驚きます。ツイードの生地などで仕立てるカントリージャケットは、猟をしたり釣りをしたり、野山を散策したりするための上着です。袖の釦は、銃を構えた時に音を立てたり、森の中で木や草などに引っ掛かったりして邪魔になりました。そのため、カントリージャケットの袖には釦をつけなくなったのです。ところが、今度は釦が無いために袖が早く擦り切れてしまうようになりました。そこで今度は、釦を一つだけ、それも前釦と同じ大きさの釦をつけました。釦の数が多いと邪魔になるからで、釦穴を開けると、釦を掛けるために釦の脚が長くなり、やはり邪魔になるために、本開きにはされませんでした。つまり、カントリージャケットは、本開きでないのが実用にもかなうクラシックなディテールなのです。80年代に流行った、デザインスーツの袖釦に大きな釦を少なく配するのは、このカントリージャケットのディテールの転用で、カントリージャケットに袖釦をズラズラとたくさん配して、釦穴を開けたりするのは同様の、良くいって前衛的蛮勇と申し上げるべきでしょうか(笑)。

本開きの袖釦が、その上着の素晴らしさを語っている場合も確かにあります。しかし、袖釦の穴の開いていないスーツが良くないということではありません。もっと全体的な着こなしや仕立て具合に目を向けられて、装いを楽しんでいただきたいものです。そして、どんなに素晴らしい仕立てでも、必要の無い時は上着の袖釦は閉じておいて欲しいものです。見る人が見ればわかるのですし、現金をたくさん持っているからといって、チーフをさす胸ポケットにお札を入れて見せびらかすような野暮は、しないにこしたことはないと思われませんか(笑)?

立てば掛ける、座れば外す。

「立っている時は必ず掛かっていて、座っている時は必ず外れているもの、なぁ~んだ?」というクイズではありません(笑)。はたして何かといえば、スーツの上着やジャケットなどの前釦のことです。基本的に、着席時は外れていなければなりませんし、それ以外の時は掛かっていなければなりません。ご存知でしたか?

また、掛け方外し方にも、上着の形や、スーツの構成によってルールや慣習が違います。まず、最も一般的なシングルブレステッド二つ釦の上着の場合は、着席時は全て外し、それ以外の時は上の釦を一つだけかけます。次に、90年代以降、日本でも若者を中心に急増したシングルブレステッド三つ釦の上着の場合は、やはり着席時は全て外し、それ以外の時は真ん中の一つか、上の二つだけを掛けます。シングルブレステッドの上着の場合は、いかなる事があっても一番下の釦は掛けてはいけません。これは、上着の長さが膝まであった頃に、全て掛けてしまうと歩き難くなってしまうため、下の幾つかの釦を外して着用した頃の名残といわれていますが、実際に現在でも、どんなジャケットも一番下の前釦は掛けないような仕立てになっているので、掛けると上着の腰から下が引っつれて皺が出て、前裾が美しくカーブしなくなってしまいます。

更に、シングルブレステッドの上着の場合は、着席時でなくとも、常に前釦を外していて構わない場合があります。それは、ベストを着用している場合で、三つ揃いのスーツであっても、オッドベストのセパレーツであっても、上着の前釦が掛かっていなくても無作法とはなりません。

ダブルブレステッドの上着の場合は、やはり着席時には前釦は外れていなければなりませんが、それ以外は例外無く前釦は掛かっていなければなりません。釦が掛かっている状況のルールはシングルブレステッドの上着よりも厳格です。実際に掛けられる外側の釦の数が二つ以上ある場合は、一番下の釦を外しておくのが粋な着こなしといわれていますが、全て掛けても無論構いません。ここまで書くとおわかりのように、ダブルブレステッドの上着の場合、立ち上がる際には最低でも内側の釦一つと外側の釦一つの二つの釦を掛けなければならず、この所作をさりげなく優雅にこなすには、ある程度着慣れていないと難しいでしょう。ダブルブレステッドの上着の前釦を全て外して闊歩するのは、もっとも無作法で野暮な装い方ですから、これだけはやめましょう。

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よく、テレビの報道番組などでは、キャスターの男性が、着席時に前釦をかけて喋っていたりしますが、これは厳密にはバッドマナーなのですが、昔、キャスターが立って喋っていた頃の名残りで、構図の殆どがバストアップなのは、立っていることの演出なのです。問題は、この報道番組のやり方を形式だけ導入したバラエティー番組で、机も無く、キャスターやタレントがスーツの前釦をしっかりと掛けて高い椅子に座り、脚をおっぴろげて喋っているのは、視聴者に対して無礼この上ないということを申し添えておきます。昔は、某国営放送の報道番組を見て、標準語を練習しろなどと言う方がいましたが、帽子の項でも書かせて頂きましたように、こと装いに関する限りテレビ番組を参考とするのは注意が必要です。

着席時に上着の前釦が掛かっていることは、それ以外の時に掛かっていない無作法よりは、はるかにマシであるといえますが、実際に試してみて頂くとおわかりになると思うのですが、上着にボコボコと変な皺や波うちが出てしまい、無様この上ない有様になってしまいます。これは、やはりどんな上着も、着席時には前釦を外すようなバランスに仕立てられているからなのです。シングルブレステッドの上着なら、釦たった一つを掛け外しする手間です、出来ればスーツという端整な服は優雅に美しく凛々しく装って頂きたいと願います。

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最後に、こうした装いの国際的な慣習やルールを知らない方が、特に年配の方に多くいらっしゃいます。上司に、「キミ!だらしないな!!背広の一番下の釦が掛かってないじゃないか!」といわれてしまった場合の対応は、ご自分でお考えになって下さい(笑)。スーツの装い方の慣習やルールは、発祥した国の王族や貴族の習慣や特性によるものが多く、ビジネスマンという社会的地位の割りに趣味の悪い男達の管理職ふぜいがとやかくいえるものではないのですけれどね。

蝶ネクタイは結ぶもの。

日本で蝶ネクタイと呼ばれているものは、正式にはボウタイ(BowTie)という名称です。結び上がりが蝶の羽根の形に似ているフォーマル用のものには、バタフライ(蝶)のサブネームを持つ形がありますが、日本ではかつて、一般的に蝶ネクタイを締める場は、フォーマルシーンが殆どでしたから、ボウタイ=バタフライになってしまって、和訳して蝶ネクタイとか蝶タイと呼ばれるようになったのでしょう。

このボウタイ、蝶の形に出来上がっていて、ベルトを首に回して、蝶の形の結びの根本にホックで引っ掛けて装うもの(メイドアップタイとかメイドアップボウといいます)、と思っている方が多くいらっしゃるのにはショックでした。

ボウタイも結ぶものです。この、メイドアップタイを使う習慣は、もうやめて頂きたいものです。そのくらい、出来合いのボウタイは無様なものだと思います。日本の或る著名なテーラーさんは、男性のワードローブには、チョークストライプのフランネルのダークスーツとネイビーのブレザーは必ず無くてはならないと法律化して欲しい(笑)とおっしゃっています。私もこれには大賛成ですが、それ以上にボウタイを結べない人はボウタイをしてはいけない、またボウタイを必要とする服装をしてもいけない、という決まりこそ法律化して欲しいと強く強く思っております(笑)。

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考えてもご覧になってみて下さい。ホワイトタイやブラックタイの夜会服は、男性の装いの中でも最もドレッシーでエレガントなものです。その装いの要とも言える部分に、ホックで引っ掛ける形の悪いボウタイがあるなどとは、嘆かわしくて泣きたくなるというものではありませんか。

民間放送のと或る局で、指揮者を目指す男の子とピアニストを目指す女の子を主役に、彼らの青春を描いた人気ドラマがありました。ややもすると堅苦しくなるクラシック音楽の何曲かを親しみやすくしてくれて、回を追う毎に指揮姿がサマになってくる端整なマスクの俳優さんと天才的で変態(笑)なピアニストを演じる女優さんの演技を、私もとても楽しませてもらいました。

ただ一点!指揮姿のテールコートの襟元が!!!やはり、この無様な引っ掛けの出来合いボウタイでした。設定によると、由緒ある財閥直系の母と、国際的ピアニストの父の間に生まれ、少年時代を欧州で過ごしたという主人公が、ボウタイを結べないなんてちょっと考えられませんもの。おそらく、製作スタッフにフォーマルウェアに詳しい方がいらっしゃらなかったのでしょうが、折角のいい筋立ても、ヨーロッパのコンサートホールの重厚さも、指揮台に立つ指揮者の襟元が映ると興ざめしてしまいます。映画化が進んでいるというお話ですので、映画ではしっかりと「結ばれた」白いタイを見たいものです。演じる端整な俳優さんには、とてもお似合いになることでしょう。

フォーマルのイメージが強いボウタイですが、スーツやセパレーツに合わせる柄物もあり、結び下げのネクタイと同様に装っても構いません。アメリカン・キャンパススタイルや、ジーンズ+ジャケットの装いにも、カラフルなボウタイはよく合います。春たけなわを迎えるこれからのシーズンには、その若々しい感じがとてもいいと思います。また、欧州では、老齢の学者さんがツイードの服などに合わせたりしていますが、これも素敵ですね。威厳ある雰囲気が堅苦しくなり過ぎず、適度に優しく柔らかいイメージになります。

皆さんも、是非ボウタイの結び方を覚えられて、装いを楽しまれて頂きたいと心から思います。因みに、きちんと結ばれたボウタイは、外す所作もなかなか粋なものですよ。
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