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私のハリス・ツイード。 -1-

私は、子供の頃からハリス・ツイードが好きでした。
あの、ざっくりと厚手で、新しいうちは硬く、そして武骨で愛想の無い生地が、何年か着ているうちに少しずつ柔らかくなっていき、着心地良く変化していきます。それは、子供の頃に悪戯を叱られた、近所の気難しい頑固なお爺さんが、それが縁で日々顔を合わせているうちに、次第に打ち解けて、日々あいさつを交わしたり、家へお邪魔して彼の思い出を聞いたり私の将来を語ったりした、そんな子供時代と重なるものがあるからかもしれません。

ハリス・ツイードの服は、暴れん坊だった私が毎日着て出かけて、雨に濡れ、木々に引っ掛かり、転んで擦れても、決して裂けたり破けたりしませんでした。膝や肘が擦り切れて穴が空くと、母が小言を言いながら革のパッチをあててくれたものです。
私が育つ頃には、そうした服の修繕が子供たちに嫌がられだしたものでしたが、私は、着込んで傷だらけになり、見てくれは悪くなっても、とても着心地が良くなったその服が捨てられず、身体が大きくなって、きつくて着られなくなるまで着たものです。
ツイードの服は、どんな時代にも男性服の素材として根強い人気がありますが、それはこの服地が、とにかく実用的で、その上に、多くの男性のそうした少年時代を思い起こさせるからかもしれません。

けれども私は、青年時代から最近まで、ハリス・ツイードの服は着ませんでした。
それは、子供の頃に来たような色柄の生地がどこにも無くなってしまったからです。今でも、ハリス・ツイードと言えば、ダークグレイのヘリンボーンに代表されるような、重い、悪く言えば少し暗鬱な色柄が殆どです。
私が子供時代に着た生地は、大きなチェック柄で、よく見ると赤や紫、緑が入っていて、けれども、森の中に入ると決して目立たない、そんな色柄でした。
私が覚えている色柄は、子供の頃の不正確な記憶だったのでしょうか? それとも、年月を経て、私が記憶を美化してしまってしたのでしょうか?

自分の服を色々と工夫しながら誂え始めた青年時代に、私はジョージ五世や、のちのウィンザー公が、普段は端正で保守的な装いながら、狩猟の時には従者が驚くような大柄のチェックに派手な色のツイードの上着を着るというエピソードを読み、「あぁ、そうだよなぁ~。」と憧れながらも、王様や王子様でもない私には、どうにもならないことでした(笑)。

しかし、近年、ふとしたことでスコットランドのハリス・ツイードの織元さんの一つと知り合う機会があり、彼らの織った生地たちを見て驚きました。子供の頃の記憶の色柄がたくさんあるではないですか!
私の記憶は誤っていなかったという満足とともに、こうなったからには、自分だけのオリジナルの色柄のハリス・ツイードが欲しいという欲望がムクムクと膨れ上がってくるのを抑えることができなくなってしまいました。
ブラウンとブルーを基調とした大きなチェック柄で、1~2色の明るい色かビビッドな色でオーバーペーンを入れる。チェックのラインの太さや交わり方などは・・・、などと構想を重ね、完成したデザインを織元さんに見て頂き、織って貰えないかと交渉しました。メーター数の事や、注文後の事など課題もあったのですが、自前のデザインを造ったということ、遠く日本からの依頼であることを喜んで貰え、織って頂けることになりました。

こうして、約1年の期間をかけて、私だけのハリス・ツイードは織り上がったのです。

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生地の質感も私好みで、色柄も全くイメージ通りといってよいレベルに織り上がりました。
この生地を仕立てて、子供の頃のように野山を闊歩する日が楽しみです。アクティブに着まくって、生地が擦り切れたら、もちろん革のパッチをあてます。この齢から着おろすのですから、もう、死ぬまで着ることが出来るでしょう。織元さんも、仕立て上がりを楽しみにしているとのことで、仕立て上がったら、織元さんに送る写真を、何処かの森の中で撮影でも致しましょうか(笑)。
この生地を服に仕立てて頂くのは、勿論、「私の仕立て屋さん」Nさんです。


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