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イングリッシュガーデンの装い。

今日、クラシックと言われて日本の男性に好まれる幾つかのスーツスタイルがあります。グラントやゲーブル、アステアのハリウッドスタイルや、アイビーなどの日本でトラッドなどと呼ばれるものなど、そして近年騒がれて沈静しつつあるイタリアン・クラシック。しかし、その全ての底流に英国のメンタルが強く息づいている事を否定できる方はいないでしょう。男性の洋装が、常に英国のメンタルを基調としているのは、いったいどうしてなのでしょう?

私は、その答えはイングリッシュ・ガーデン、すなわち英国風庭園の仕立て方に見ることが出来ると思っています。英国の庭は、たとえ最近手に入れたものでも、数代前から相続した庭のように誂え、また、細心の労力を払いながらも、過度に手を掛けず自然のままに見えるような「演出」を心がけます。どうですか?まるで男性の装いの心がけのようでしょう?

スーツスタイルと庭園造営、その両方に共通する誂えの精神は、血統と呼んでもよい、伝統と普遍性への尊重と憧れであると思います。いかにも自然に昔からそこにある、ということは、そこに存在する正当な権利と資格を持っているということを静かに主張しているのです。

英国の乗馬服や軍服から発生したテールコートやモーニングコートを先祖に持つスーツは、その歴史が詳らかな事に非の打ちどころの無い男性服と認知されています。また、スーツにデザイナーやモデリストは存在しません。優雅なる貴族や閑人が自分の馴染みの仕立屋に誂えさせて積み上げ、確立してきたスタイルであり、うつろい易いシーズンごとのデザインとは違うのです。彼らの趣味やイマジネーションが優れていたからこそ、永きにわたって男性の「きちんとした」服装として認知されてきたのです。歴史とともに、その血統、伝統においても全く非の打ちどころが無い男性服なのです。そうした伝統と普遍性が、スーツスタイルという服装の持つ一つのパワーと認識されているからこそ、多くの国々の男性が準正装、或いは日常の盛装として着用するのでしょう。

しかし、伝統と普遍性を持った服装は、着用する人間にも或る種のインテリジェンスを要求します。美意識や見識といったものがそれでしょう。成り金といわれる方たちの服装や、それよりは地味であっても晩年退職金太りした方たちの多くが、「なぁ~んかねぇ~。」という装いなのを思い浮かべられるとおわかりでしょう。「伝統は学んで身につくものではないし、復縁したいと思ってもできるものでもなく、自分の家の血統以上のものである。伝統を持ち合わせないので身につけたいと願うものは、愛に飢えているようなものである。」と言ったのはヴィトゲンシュタインですが、全く的を得た言葉でしょう。物品が関わる事だけに、金銭は必要事項の一つではありますが、決して絶対的なものではありません。

特に装いについて言えば、日本の男性は、多くが大学を卒業した22~23歳くらいになって初めてスーツを着用するという点で、経験値に大きなハンデがあります。父親や祖父も似たようなスタートであれば、「受け継いでいくスタイル」というものにも期待はできないでしょう。しかし、自分一代で始めたとしても、美意識と見識の磨き方によっては英国庭園のように「何代も前からそこにあったような自然さ」を確立する事は可能なのです。経験値や伝統の不足を自覚しつつも、あまり過度な劣等感を抱かずに、周りの人たちに好感を抱かせる自分らしさの陶冶に努力して頂きたいものです。

ポール・キアーズは、その著書の中で、

Town dress is a clear indication of a man's position in life ; his tie reflects his background, his suit reflects his income, and his shirt and shoes reflect his appreciation of both tradition and good taste. (タウン・ドレス=スーツスタイルは、着る者の社会的立場を明確に反映するもの。つまり、締めているネクタイは育った環境を顕し、着ているスーツは収入を、履いているシャツと靴は伝統と美意識への正しい理解度を顕しているものだ。)とでも訳しましょうか。

と述べていますが、色の選択の自由度の高いネクタイが趣味の良し悪し、時間と費用のかかるスーツは金銭的余裕だけでなく、価格に見合ったきちんとしたものを選んでいるか、そして、手入れの要るシャツや靴を伝統や美意識の理解度と顕すと言っているのです。なんとも、実に深くまた憎い表現ではありませんか(笑)。

男性の装いの底流に常に存在する英国のスタイルとは、服のディテールなどではなく、そのメンタルにあるのです。
我々も、英国の5月の庭園のような自分らしさを身につけたいものですね。
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