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自分らしさは謙虚に追い求めるべし。

近日、都内某放送局の役員から、「何故我が国の中高年齢者はスーツ姿が素敵にならないか?」との問いかけを頂戴しました。氏は、所謂団塊の世代、私より大分先輩にあたられるが、二十年来友人付き合いをして下さっています。

私は、以下のように答えさせてもらいました。

まず、素敵さとか美しさというのは、品とか所作に由来して他人に印象づけられるもので、生まれつき持っている人間と持っていない人間がいます。それを論じるのは、花の美しさを論じるようなもので、悲しいかなどのように努力しても、持っていない者にはその種の素敵さとか美しさを手に入れることはできません。

次に、環境による醸成というものがあります。能役者や茶道家が、五歳になると稽古を始めて、同じ所作を何度も何十年も反復練習して、不惑に到ってやっとその所作は自然に、優美に磨き上げられ、他人に美を感じさせることができます。同じようにスーツも、良いものを着続ける生活を送り続けて、はじめてエレガントな着こなしや所作が身に着くのです。

この二つともが無ければ、つまり、学生生活が終わってスーツに身を包むようになり、仕事着と割り切って作業着のように着倒す生活を続けてきたものが、或る年齢に到って経済的事情が好転したからといって、いきなり高価のものを身に纏っても、却ってお里が知れる醜態を晒すことになってしまうのです。「三十路の手習い」というのは、その修練を始めることの遅さから、モノにならない無駄を敢えてすることを哂う言葉ですが、これは習い事だけでなく着こなしについても言えることなのです。

しかし、西欧の男性などは、生まれや経済状況に関わらず、年齢を重ねた人の装いの方が素敵ではないか!?とおっしゃる方達もいらっしゃるでしょう。その通りです!では、その違いはどこにあるのでしょうか?

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それは、自分自身に対する正直さと謙虚さにあります。日本人男性の中高年齢者の多くには、決定的にこの点が欠けています。よく、「仕事で成功なさった方はいい顔をしている」という言われ方をしますが、それは、貫禄やその余裕が生み出す表情であって、醜男が美男子に変じた訳ではないのです。俄かに廻りに人が集まって来るのは、お金回りが良くなったからで、その人が魅力的に変身したからではないのです。有る物や得た物が、無い物をカバーしてくれると考えるのは、この世代の方達に特に顕著な甘えであり、傲慢さです。だから、160cmそこそこの人が同じカットで同じ素材の服を着れば、ショーン・コネリーみたいになれると誤解したり、自分がひとかどの人間になったと誤解してしまい、会社を定年退職すると年賀状が激減して惨めな思いをしたりしてしまうのです。

誤解しないで頂きたいのは、私は、だから持っていない者は無駄な努力をするな、と申し上げているわけでは有りません。しかし、成人男子たるもの三十も過ぎれば、自分に無いもの、不得手なもの、欠点を客観的に把握しているべきであり、「三十路の手習い」である上に、体格も男前も無ければ、そのハンデを自覚し、それでも目指すという覚悟が必要となるのは当然のことですね。自分の稼いだものをよすがや言い訳としてそこに逃げ込まず、苦労自慢をして金銭が容姿や人間的魅力をカバーするなどと独りよがりな思い込みをせず、自分の顔には、身長には、姿勢には、どんなカットの、どんな色柄の服が似合うのかを真摯に考察して、着こなしに努力する、そんな謙虚さこそが必要で、それが西欧人男性にあって、日本人男性の多くに欠けているものなのです。

或る意味で、日本人男性は自分をごまかすのが上手なのでしょう。「素敵でありたい」という想いが、屈折して表現されてしまうのかもしれません。仕事の出来る、その会社では出世頭である、あまり見た目が素敵ではない知人が、お洒落や華やかな時間が如何に不必要かということを、とても理論的に断定的に話すのを聞いてあげたことがありますが、とても悲しく寂しい話しでありました。そんなことより、「どうして自分は、そういう場所に誘われないのか?」を考えた方がいいよ、とは言えませんでしたが(笑)。

他人にとっては、自分の人生に於ける努力や成功など、どうでもいい話ですし、興味を持ったり褒めてあげたりする義務は無いのです。まして、その程度のことで他人の尊敬を得ることが出来るなどと本気で思っているとしたら、いい年齢をして甘ったれるにも程があります(笑)。他人に素敵だと思われたければ、自分に合った自分なりの自分造りを、人目を気にせず自分なりに黙々と続けるしかないのです。そして、それが自分造りだという意識が無くなる頃には、装いと所作は自然で美しくなり、他人はその人を素敵だと思うでしょう。

かの大人は私の話しを聞くと、「う~ん、いままで深刻に考えたことは無かったけれど、自分らしくってことは、なかなか世の中で軽く言われているほど簡単なものじゃなくて、手のかかる盆栽みたいなものなんだね~。」と。私は、長い付き合いの人生の先輩が、このことに関して有資格者であったことが、とても嬉しかったのです(笑)。
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