カシミア恋唄。
カシミアが好きです。
唐突にこんな書き出しをすると、「嫌いな人いないだろう」と突っ込まれてしまいそうですが、最近は、世間に出まわるカシミアの質の低下と、男性の重衣料に昔風のしっかりした生地が見直されてきていることもあり、カシミアについて批判的な意見を多々耳にしますから、案外、十年前と比べたら熱狂的なカシミア・ファンは少ないのかもしれません。
また、現在のカシミアの質の低下を考えると、「騒ぐほど大したことはない」と思われても仕方がないのかもしれません。70~80年代中盤くらいまでに、本当に質の良いカシミアを見て、触れたことの無い方達は「本物」のカシミアを知らないと言っても言い過ぎではないでしょう。それくらい、それ以降のカシミアの質は下降を続けています。
カシミアは、カシミール地方を原産とするカシミア山羊のアンダーコート(産毛などとも表現されます)から紡がれます。生息環境が、寒冷地の厳しい気候のために、カシミア山羊は所謂ダブルコートの被毛を持ち、外側のオーバーコートは長い剛毛で、内側のアンダーコートは柔らかくしなやかです。原毛には、ホワイト、グレイ、ブラウンというカラー・グレードがあり、ホワイトがトップ・グレードと規定されています。現在、最高品質とされているのは中国産のカシミアで、原毛の生産量も世界最多です。
この辺りまでは、改めてここで書かなくとも、ご存知の方も多いでしょう。
更に、このホワイト・カシミアを糸や生地に紡ぐ際に、原毛の段階で染めてから紡いだものが、一般的に私達が高価だと認識している高級品の原材料となるのです。
しかし、残念なことに、中国が原毛の生産の中心を占めるようになってからは、生産拡大のために本来は採毛のためのカシミア山羊の飼育に向かない温暖地でも飼育され始め、著しく質の劣った原毛も市場にあらわています。時には、そうした粗悪品が意図的に高級品にブレンドされるために、カシミアの質は急激に下がりつつあるのです。加えて、高級服地の生産をイタリアが占めるようになってから、混ぜ物がされることが暗黙の常識となり、少量のウールやコットン、時には化学繊維が織り込まれることが、品質低下に拍車をかけています。

カシミアの衣服と言えば、コート、ジャケット、セーター、ショール、マフラーなどが一般的ですが、私はカシミアのスーツが好きです。あまり一般的ではありませんが、しなやかで美しくそれに優しい着心地で、寒い時に温かく、暖かい時には涼しいからです。
ではなぜ、カシミアのスーツは見かけないのでしょうか?
スーツの服地は、コートやジャケットと違い、殆どがウーステッドといわれる梳毛生地です。梳毛とは文字通り梳くことで、長めの原毛を梳いていき梳き上がったものに強めに撚りをかけて糸にするのです。スーツの生地が滑らかで、毛羽立っていないのはこのためなのです。
しかし、カシミアは前述のように、アンダーコートの産毛が原材料ですから、柔らかく、軽く、しなやかであっても繊維長が短く、通常では長い繊維長を必要とする梳毛糸にし難いのです。そこで、紡毛糸にしてコートやジャケット、ニット用の毛糸などにすることになります。
では、カシミアで梳毛生地を作るにはどうしたらよいのでしょう?それには、通常のカシミア山羊よりも更に気候条件の厳しい原寒地で飼育されるカシミア山羊の産毛だけを使う必要があります。原寒地になれば、通常では短い産毛が長く高密になり、充分に梳毛が可能な産毛を採取することができます。但し、こうした気候条件は人間にとっても過酷ですから、可能な人間も少なく、多頭飼育も不可能で、それだけに希少ということになります。
繊維長が極めて長い産毛で紡がれたカシミアの梳毛生地は、柔らかくしなやかで、カシミア独特のヌメ感を持ちながら、しっかりとした密度と強さがあり、丈夫さこそウールに一歩譲りますが、スーツにするには最適な素材の一つだと思います。また、こうした梳毛しうる原毛で紡がれた紡毛生地こそが本物のカシミアで、そんな生地で仕立てられたジャケットや特にコートは、見た目の素晴らしさもさることながら、その暖かさ、着心地は、まさに天にも昇るものと言えるでしょう。
これこそが「カシミア」で、私が恋するのはこういう「カシミア」なのです。
ひょんなことから手元にやってくることになりました、上質のカシミアスーツ服地、近々こちらで見て頂くことができると思います。どうぞ、お楽しみに。
唐突にこんな書き出しをすると、「嫌いな人いないだろう」と突っ込まれてしまいそうですが、最近は、世間に出まわるカシミアの質の低下と、男性の重衣料に昔風のしっかりした生地が見直されてきていることもあり、カシミアについて批判的な意見を多々耳にしますから、案外、十年前と比べたら熱狂的なカシミア・ファンは少ないのかもしれません。
また、現在のカシミアの質の低下を考えると、「騒ぐほど大したことはない」と思われても仕方がないのかもしれません。70~80年代中盤くらいまでに、本当に質の良いカシミアを見て、触れたことの無い方達は「本物」のカシミアを知らないと言っても言い過ぎではないでしょう。それくらい、それ以降のカシミアの質は下降を続けています。
カシミアは、カシミール地方を原産とするカシミア山羊のアンダーコート(産毛などとも表現されます)から紡がれます。生息環境が、寒冷地の厳しい気候のために、カシミア山羊は所謂ダブルコートの被毛を持ち、外側のオーバーコートは長い剛毛で、内側のアンダーコートは柔らかくしなやかです。原毛には、ホワイト、グレイ、ブラウンというカラー・グレードがあり、ホワイトがトップ・グレードと規定されています。現在、最高品質とされているのは中国産のカシミアで、原毛の生産量も世界最多です。
この辺りまでは、改めてここで書かなくとも、ご存知の方も多いでしょう。
更に、このホワイト・カシミアを糸や生地に紡ぐ際に、原毛の段階で染めてから紡いだものが、一般的に私達が高価だと認識している高級品の原材料となるのです。
しかし、残念なことに、中国が原毛の生産の中心を占めるようになってからは、生産拡大のために本来は採毛のためのカシミア山羊の飼育に向かない温暖地でも飼育され始め、著しく質の劣った原毛も市場にあらわています。時には、そうした粗悪品が意図的に高級品にブレンドされるために、カシミアの質は急激に下がりつつあるのです。加えて、高級服地の生産をイタリアが占めるようになってから、混ぜ物がされることが暗黙の常識となり、少量のウールやコットン、時には化学繊維が織り込まれることが、品質低下に拍車をかけています。

カシミアの衣服と言えば、コート、ジャケット、セーター、ショール、マフラーなどが一般的ですが、私はカシミアのスーツが好きです。あまり一般的ではありませんが、しなやかで美しくそれに優しい着心地で、寒い時に温かく、暖かい時には涼しいからです。
ではなぜ、カシミアのスーツは見かけないのでしょうか?
スーツの服地は、コートやジャケットと違い、殆どがウーステッドといわれる梳毛生地です。梳毛とは文字通り梳くことで、長めの原毛を梳いていき梳き上がったものに強めに撚りをかけて糸にするのです。スーツの生地が滑らかで、毛羽立っていないのはこのためなのです。
しかし、カシミアは前述のように、アンダーコートの産毛が原材料ですから、柔らかく、軽く、しなやかであっても繊維長が短く、通常では長い繊維長を必要とする梳毛糸にし難いのです。そこで、紡毛糸にしてコートやジャケット、ニット用の毛糸などにすることになります。
では、カシミアで梳毛生地を作るにはどうしたらよいのでしょう?それには、通常のカシミア山羊よりも更に気候条件の厳しい原寒地で飼育されるカシミア山羊の産毛だけを使う必要があります。原寒地になれば、通常では短い産毛が長く高密になり、充分に梳毛が可能な産毛を採取することができます。但し、こうした気候条件は人間にとっても過酷ですから、可能な人間も少なく、多頭飼育も不可能で、それだけに希少ということになります。
繊維長が極めて長い産毛で紡がれたカシミアの梳毛生地は、柔らかくしなやかで、カシミア独特のヌメ感を持ちながら、しっかりとした密度と強さがあり、丈夫さこそウールに一歩譲りますが、スーツにするには最適な素材の一つだと思います。また、こうした梳毛しうる原毛で紡がれた紡毛生地こそが本物のカシミアで、そんな生地で仕立てられたジャケットや特にコートは、見た目の素晴らしさもさることながら、その暖かさ、着心地は、まさに天にも昇るものと言えるでしょう。
これこそが「カシミア」で、私が恋するのはこういう「カシミア」なのです。
ひょんなことから手元にやってくることになりました、上質のカシミアスーツ服地、近々こちらで見て頂くことができると思います。どうぞ、お楽しみに。
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