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長年の懸案に挑む。 -1-

私にとって、装いの上で長年の懸案と言えば、それはドレス・シャツでした。
世界中どこに行っても、また、どんな専門の老舗で誂えても、シャツはスーツやジャケットを着用する上での「添え物」的な位置を脱しませんでした。そして、それはイメージだけでなく、上着の出来がどんなに素晴らしくとも、シャツが着感に制限を与えているように思えて仕方がありませんでした。
それらの理由を模索した中の幾つかを書かせて頂けば、まず欧州のシャツ屋さんは、伝統的なノウハウとレベルの高い顧客を持っていますが、既にその黄金時代を過ぎており、ノウハウや技術を持っていても、「なぜ、そうするのか?」という理由が忘れ去られてしまっています。問えば一番よく聞かされるセリフが、「うちは昔からそうだから」です(笑)。また、日本のシャツ屋さんは、細かい仕事は丁寧であっても、顧客の身体に合わせるという点では、所謂スーツの仕立てでいうところの、パターン・オーダーやイージー・オーダーの域を出ていません。
結局、ドレス・シャツの誂えというものは、最大公約数的に割り切るしかないのではないか? 昨今、私はそう思い始めていました。
そんな折に、独自の理論でシャツを誂えるY氏との出会いがあったのです。
Y氏は、顧客の身体と上着に、完璧にカスタマイズされたシャツを誂えることを目指し、そのために人体工学を学び、スーツの仕立て屋さんに弟子入りまでし、また、スーツに比べてアイロンでのくせ取りに限界があるシャツは、むしろ和服の仕立て技術の応用が有効と思い立たれて、その吸収にも余念がありません。
そんなY氏に、私のこれまでのドレス・シャツ感をお話しすると、全く同感とのご意見を頂いて、いつの間にか、二人でその意識を打ち破るシャツを造りあげましょう、というお話になったのでした。

Y氏より、最初の仮縫いの準備が整ったとのお知らせを頂き、アトリエへお邪魔しました。最初の仮縫いは、シーチングによって行います。シーチングとは、生成り木綿の薄手の生地で、本番用の生地をカットする前に型紙のチェックのために代用します。
Y氏は、顧客一人一人に、まるでスーツのそれのような独自の型紙をおこされます。そしてやはり(笑)、採寸から仕上げまでをすべて一人でこなされます。

b_shirt01

背中側の写真です。代用生地の仮縫いのため、本縫いされていないにも拘らず、おかしな着皺が全くと言ってよいほど無いのがお判りになると思います。左腕の肘の辺りがツレているのは、袖丈の長さを採るためにやっています。

b_shirt02

前側の写真です。やはり、不自然な着皺が無いことが判ります。私は、背中の肩甲骨付近の筋肉が厚く盛り上がっており、やや猫背気味で、胸囲と胴囲の落差が大きく、背中にしろ、前にしろ、こんな風に自然に生地が流れるのは、なかなか稀有なことなのです。

b_shirt03

トラウザースを穿き、タイを締めてみました。タイを締めたノットの付近にも、タイを挟んだ両前身頃にも、全くといってよいほど、ツレや皺が無いのがお判り頂けると思います。こうして他のアイテムを着用してみると、改めて実感するのは、シーチングの仮組みにも関わらず感じる、何とも言えない着心地の良さです。肩と首、そして腕に到る着感が、これまで私が着てきたシャツとは明らかに違います。良い悪いではなく、次元が違うので比較が出来ないというのが正直なところです。

b_shirt04

シャツ単体で着用している時よりも、トラウザースを穿き、ベストを着用し、上着を着こむと、より鮮烈にシャツとしてのモノの違いが判ります。スーツの着感が、これまではシャツによってかなりトーンダウンされていたことがハッキリと自覚できます。
スーツとドレスシャツの関係は、良質の靴とホーズの関係に似ているのではないでしょうか? どんなに素晴らしく誂えられた靴でも、きちんとフィットしたホーズを履かなければ、その靴本来の着感は得られないでしょう。良い靴を大切に、上手に履く方は、必ず良質のホーズをたくさん持っていらっしゃるものです。
Y氏との出会いによって、そんなシャツを着ることが出来る幸運を、私はたった今、実感しております。
本番の生地を使った中縫いが、今から楽しみです。どんな生地かは、次回の折に・・・(笑)。
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